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湧水・地下水保全条例素案から「災害時民間井戸活用」の項が削除された [5.緑の基本計画と湧水・地下水保全条例]

(2010.7.28記)

(仮称)国分寺市湧水・地下水保全条例素案の最終案(H22.6.30第9回国分寺市緑の基本計画見直し等検討協議会に提示)のひとつ前の素案(H22.5.21同協議会に提示)に記載されていた「災害時の民間井戸の活用」に関する項が、最終案で突如削除されてしまいました。
第13条(災害時の利用)の第二項「井戸の所有者及び利用者は、災害時に公益的な利用ができるよう努めるものとする」が、最終案では削除されています。

■削除の根拠について
H22.6.30の協議会にて委員が「災害時の民間井戸の活用」が削除された根拠を質問した際、条例の所管課である「緑と水と公園課」の答弁は以下のようなものでした。
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「緑と水と公園課」が「くらしの安全課」にヒアリングを行った際、くらしの安全課が「災害時の生活水の確保は、市内19ヶ所のむかしの井戸(国分寺市設置の防災井戸)で十分」と言ったから。
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そこで委員が、「むかしの井戸で十分」とするその数値的根拠について質問すると、「聞いていない」との答弁でした。

この答弁を受け、市議会議員がくらしの安全課にヒアリングを行い、その際、くらしの安全課が数値的根拠を説明する資料を提示。この資料を入手しました。

その資料によると、大地震災害時の国分寺市の断水率は、わずかに「28.7%」しか想定されていないことが判明。
つまり、「大震災でも市内の7割以上は断水せず、平時と同様に水道が使える」ことを前提として、これをもって「災害時の生活水の確保は、市内19ヶ所のむかしの井戸で十分」としていることがわかりました。

以下、くらしの安全課が示した資料の中身について検証します。

■首都圏直下地震による東京の被害想定
「断水率28.7%」の根拠は、「首都圏直下地震による東京の被害想定より」となっています。

そこで、平成18年5月に東京都が公表した「首都直下地震による東京の被害想定(平成18年5月)」をWEBで調べてみました。
以下、関連サイトへのリンクです。

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■東京都防災ホームページ 地震の被害想定:
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/assumption.html

東京都防災ホームページ 首都直下地震による東京の被害想定報告書(平成18年5月) :
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/knowledge/material_h.html

同報告書本編7  区市町村別被害想定結果(PDF:819KB):
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/knowledge/pdf/h18choka/hon7.pdf

同報告書資料編図11 ライフラインの被害分布(PDF:575KB):
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/knowledge/pdf/h18choka/shiryo11.pdf

同報告書手法編6 ライフライン被害と復旧(PDF:186KB):
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/knowledge/pdf/h18choka/shuho6.pdf

[PDF] 首都直下地震による東京の被害想定 (最終報告) Ⅱ 資料編:
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/assumption02.pdf

■[PDF] 首都直下地震の被害想定 (概要):
http://www.bousai.go.jp/syuto_higaisoutei/pdf/higai_gaiyou.pdf

■[PDF] I. 直下地震の被害想定と防災対策 東京大学 名誉教授 溝上 恵:
http://www.jsi-rc.gr.jp/data/mizoue_01.pdf
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上記の中の「首都直下地震による東京の被害想定報告書(平成18年5月)本編7  区市町村別被害想定結果(PDF:819KB)」に、都内区市町村別のライフライン被害想定が載っており、「多摩直下地震 M7.3  風速6m/s」を想定した際の国分寺市の上水道断水率が28.7%と予測されています。(93ページ)
くらしの安全課が示した「国分寺市の断水率」は、この数値によるものと思われます。

■被害予測における想定外の要因について
この被害予測は、あくまでも想定した条件下での予測であって、マグニチュードは最大で7.3と想定されています。関東大震災級のマグニチュード8クラスは想定されていません。
また、風速の想定は、関東大震災時の風速15m/sを想定した被害予測も出ているはずですが、この資料はWEBでは公開されておらず、国分寺市の被害予測も、風速6m/sの想定を前提としたものです。(風が強くなれば、当然のことながら、延焼などの被害が拡大し、断水率も高くなります)
また、この断水率予測は、拠点施設の被災による機能停止は対象外とされています。給水施設の被害が甚大でポンプが止まり送水が出来ないという事態は想定外です。

さらに、各住宅の蛇口に直接繋がる枝管の破損によって、蛇口から水が取り出せないという状況は、断水率には含まれていないものと思われます。
また、マンションなどの集合住宅では、停電によって蛇口から水が出なくなるという現実も、断水率には含まれていないようです。

■想定どおりなら水は確保できるのか
こうした想定外の要因が加われば、断水率3割以下という予測は脆くも崩れることになるわけで、想定内のことしか起こらないという前提で、それ以外のことが起こったときの手当てがまったく考慮されていない防災計画というのは、まことに危ういものだといわざるをえませんが、仮に想定どおりのことが起こったとして、水道の蛇口から水を得られなくなった約3割の家庭は、実際に生活水を得ることが出来るのかどうか、それを検証してみたいと思います。

国分寺市の人口は、現在約118,000人ですので、その3割というと35,000人前後となります。
国分寺市は、災害下での生活に必要な水を、飲み水一人一日3リットル、生活水は一人一日30リットルとしていますので、あわせて一人一日33リットル。
35,000人では1,155トンです。

試算数値の根拠は、震災時の水確保・「むかしの井戸」で足りるのか.doc(畑中試算)によります。
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上水道給水口9ヶ所(大口径で圧力の高い給水ホースが使われるとして):
80リットル/m ×60分×8時間給水×9ヶ所=345.6トン
※家庭の水道蛇口では、全開にしても毎分15リットル程度の給水力です。

むかしの井戸19ヶ所(動力ポンプなし、手漕ぎ井戸を24時間フル稼働させたとして):
10リットル/m×60分×24時間給水×19ヶ所=273.6トン

公立学校プールの浄化水(浄水器34台 動力ポンプなし、手漕ぎで24時間フル稼働させたとして):
500リットル/h×24時間給水×34機=408トン

345.6トン+273.6トン+408トン=1027.2トン
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130トンほど足りませんが、一人あたりの給水量を30リットルとすれば、ほぼ充足できる計算になります。
しかしこれは、むかしの井戸と浄水器(いずれも動力なしの手動式)を24時間こぎ続けることを前提とします。
むかしの井戸は、19ヶ所のうち、常時2~3箇所は故障や水質悪化で使えなくなっており、予算がないからと修理に数ヶ月かかります。
そして、井戸を24時間こぎ続けること自体、不可能ですが、仮にそうしたとしたらポンプが壊れて動かなくなること必至です。

■問題の所在
国分寺市の想定どおり、水の総量はあるのです。
ところが、それを取り出す口が圧倒的に少ない。しかも、すべてを人力に頼らねばならず、故障も想定しなければならない。
水を必要とする人口に水が行き渡らない原因はそこにあるのです。

想定どおり、7割の家庭では平時と同じように水道蛇口から水が出るのであれば、出ない家は出る家から貰い水すればよいではないか、という考えも浮かびますが、実際には、敷設水道管を共有している一定のブロックが断水するのですから、隣り合うAさん宅、Bさん宅、Cさん宅のうち、Cさん宅だけ水が出なくて、お隣さんんから貰い水をするという状況にはなりません。
同じブロックの家は、全部、水が出ないということになるのですから、その地区の人は皆、給水拠点まで水を取りに行かなければならないのです。

そうなると、また想定外の問題が起きてきます。
水というものは、運ぼうとすれば死ぬほど重たいもので、これを家族の人数分、毎日毎日運ぶのは容易なことではありません。
誰だって、なるべく近い給水拠点で水を貰おうとするに決まっていますが、上で行った試算は、市内の給水拠点それぞれの能力に見合った人数が、すべての給水拠点にほどよくちらばってくれて初めて成り立つ試算です。
こんなこと、実際にはそううまく行くはずがありません。

そして現実問題、公的な給水拠点よりも近いところに、井戸を持っているお宅があると聞きつければ、皆、そこに水を貰いに行くのです。
大災害下で、井戸を持っている人が門を閉ざして他人に水を分けないなどということは、実際には出来ないのです。門を叩かれれば、井戸を開放しないわけには行かなくなる。

だからこそ、どの地区の人が水を分けてもらえるのか、開放する時間帯、給水方法など、あらかじめ原則的ルールを決めておく必要があるのです。
災害時協定を結んでおくということは、むしろ、井戸所有者の保護のためなのです。井戸を所有している人の中には、それに気づいている人と気づいていない人がいるとは思いますが、災害時協定のニーズは、井戸所有者の側に潜在していると考えるべきでしょう。

行政の想定の中には、総量の想定しかない。そこが問題です。
井戸や浄水器という器具の給水能力の限界、人力の限界についての想定がない。
そして、大災害下で、人間がどういう心理に陥り、どんな行動をとるのかという想定がまったくない。
そこが最大の問題です。

東京都が行っている「首都直下地震による東京の被害想定」は、高度な専門知識を持つ識者が行った渾身の予測であるとしても、そもそも予測というものは、蓋然性をまとめたものに過ぎず、また、東京全域という広範囲において、被害がどのように分布するかという大くくりな量の想定に過ぎません。
この広域的な量の想定をそのまま区市町村にあてはめて、大くくりな想定以上の被害が起きないことを前提とした計画は、現実には破綻を免れないことを知るべきでしょう。
被害予測というものは、想定された被害以下では済まないことを想定するための材料だと考えるべきです。

災害下であろうと、平時であろうと、水そのものは無限と言ってよいほどの量が存在します。
その水を、人間が使える形で取り出す術が極端に狭められる。それがすなわち災害なのです。
災害下において、人が最低限暮らせるだけの水を確保できるようにする対策というのは、水の取り出し口をひとつでも多く確保することに他なりません。
国分寺には、まだたくさんの民間井戸が残っており、イザという時に備えて、普段から井戸を使えるように手入れしている所有者は大勢います。その井戸水の利用を、なぜ災害対策の中に位置づけないのでしょう。
行政が「量はある」とタカをくくって、取り出し口を増やす手当てを怠れば、それはもはや人災というべき災害となります。そこにパニックや暴発的な事態が引き起こされ、連鎖的に拡大してゆくのです。

■削除の背景と今後に向けて
国分寺市は平成18年ごろには、「地下水は公水」という考えに立ち、災害時には民間所有の井戸を活用する方向で行くという議会答弁もありました。
ところが、平成19年3月に出た防災計画(所管課はくらしの安全課)では、その考えは捨て去られていました。
以来、防災の所管であるくらしの安全課が行うべき民間井戸所有者と行政との対話は断たれてきたのですから、ある日突然、「湧水・地下水保全条例」に「井戸の所有者及び利用者は、災害時に公益的な利用ができるよう努めるものとする」などという条文が盛り込まれれば、当然、反発も出るでしょう。
行政はそれを恐れて、素案から当該条文を削除させた、ということでしょう。
湧水・地下水保全条例を策定している「緑と水と公園課」の側には、公水としての地下水を保全し活用しなければという思いがある一方で、防災計画の所管のくらしの安全課、もしくは市の上層部は、「地下水は公水」という考えを放棄するよう方向転換をしており、「緑と水と公園課」の条例素案にストップがかかったという裏事情がうかがえます。

「地下水は公水」という考えを突然放棄し、民間井戸所有者との対話を怠ったツケがまわってきたわけで、只今ただちに当該条文を復活させることは難しいかもしれません。
しかし市民がこのまま黙っていては、イザ災害が起きた時、水の確保をめぐって悲惨なことが起きてしまうのは必至。
9月に予定されているパブリックコメントを機に市への説得を開始し、並行して議会にも頑張ってもらわなければなりません。
条例制定は終着点ではなく、対話と議論をはじめるための出発点と考えたいと思います。

(2010.7.28記)
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